| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-017

ダケカンバのフェノロジーに対する低温の影響

*高山縁,小野清美,隅田明洋,原登志彦(北大・低温研)

温帯・亜寒帯の地域の落葉性の樹木にとって、開葉フェノロジーは樹木が生存・成長していく上で重要である。早期の展葉はバイオマス生産や空間の優占に有利である反面、春の遅い凍結温度による凍結損傷の危険性を増大させる。地温および気温の低下は植物の吸水量や蒸散量に影響を与え、体内の水分状態を変化させるため、樹木のフェノロジーを制限する要因となる。そこで本研究では、低温が樹木のフェノロジーや光合成に与える影響に着目し、北海道に広く分布する落葉広葉樹のダケカンバ(Betula ermanii)の苗木を常温(15-20℃)または低温(5-10℃)に設定した人工気象器内および自然条件に近い温度の温室内で栽培し、展葉・落葉の観察および光合成速度の測定を行った。

常温個体に比べて低温個体の展葉および落葉の開始は遅く、当年枝当たりの葉枚数が最大に達する時期は約3か月遅れた。低温個体の新葉は、温室個体および常温個体に比べて厚さおよび乾燥重量当たりの窒素含量は高く、遅延緑化が見られた。低温個体の光化学系IIの最大量子収率(Fv/Fm)、電子伝達速度(ETR)および光合成速度は常温個体に比べて全体的に低い値を示したが、生育と共に増加した。以上の結果より、低温では酵素活性が低下し、過剰な光による光阻害が常温よりも強く起きたためFv/FmおよびETRが低かった可能性がある。しかし、低温個体は、厚く、窒素含量の高い低温・強光に適応した葉を作ることでETR、Fv/Fm、および光合成速度を生育と共に増加させ、さらに、葉寿命が長くなり、落葉時期が遅れたと考えられる。今後、葉や根で特異的に発現し、細胞の水透過性・水吸収に深く関わるアクアポリンと低温との関係を調べることで低温と樹木のフェノロジーとの関連を明らかにする予定である。

日本生態学会