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一般講演(ポスター発表) P3-018
ダケカンバ(Betula ermanii)は北方寒冷圏に生育する落葉広葉樹であり,その形態的・生理的特性は,低温・乾燥を気候特色とする北方寒冷圏での生存に重要な役割を果たしていると考えられる。乾燥ストレスによる光合成速度の低下は,光阻害を引き起こす原因となる過剰光エネルギーを増加させる。ダケカンバ苗木では,乾燥ストレス経験の有無により,過剰光エネルギー消去のメカニズムが異なることを第54回大会にて報告した。今回はハダニに感染したダケカンバ苗木を用い,感染前の乾燥ストレスの経験の有無が,ダケカンバの形態や感染後に二次開葉した葉の光合成機能にどのような影響を与えるのかを調べた。
ダケカンバ苗木は,2週間に1度灌水を行う個体を乾燥個体,毎日灌水する個体をコントロールとして生育した。8月上旬,乾燥処理,コントロールに問わず全個体がハダニに感染し,葉が枯れて落葉する現象が起きた。9月上旬,冬芽が展開しその葉を二次開葉として測定および実験に用いた。ダケカンバ苗木の枯死率は,ハダニ感染前でコントロール個体が6.3%,乾燥個体では38.1%であったが,感染後にはコントロール個体では変化がなく,乾燥個体で81.0%になった。ダケカンバの苗高と基部直径は,ハダニ感染の影響を受けず乾燥個体で小さい傾向を示し,ダケカンバの成長と枯死にハダニ感染前の乾燥処理の影響が大きいことを示した。また,葉寿命はコントロール個体よりも乾燥個体の方が長く,過剰光エネルギーを熱として消去するキサントフィルサイクルの脱エポキシ化の割合は,落葉前のコントロール個体の方が乾燥個体よりも高い傾向を示した。まとめると,ダケカンバ苗木は乾燥ストレスによりハダニ感染による枯死率が増加するが,感染後も生存した乾燥個体は資源を投資した寿命の長い二次開葉を展開することが示された。