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一般講演(ポスター発表) P3-021
本研究は,和歌山県田辺市と周辺において衰退が著しいとされるヤマザクラを対象に原油の煤塵曝露を行いその生理生態に及ぼす影響を調べた。実験は2回(2004-2005),(2006)に行い、1回目の結果では曝露が行われたハウス内よりも無曝露のハウス外において,より可視障害(変色、落葉)の発生の増加し、地上部の相対成長率や地下部の細根率の低下がみられた。この実験から、「ハウス外においては煤塵曝露によって、より一層の可視障害、生理生態、生長量への影響が引き起こされる」との仮説のたて、実証を試みた。2006年5〜11月の毎週3回、広島大学構内のハウス内とハウス外の鉢に植えたヤマザクラの葉に、中国産原油から得られた煤塵水溶液を散布した。散布は煤塵による被害が懸念される地域の葉面の煤塵付着量の推定値の0倍(対照)、3倍、10倍区の各10鉢に散布した。ハウス内外の微小気候の違いは開放されたハウスの側面から侵入する夜露である。葉の可視障害(健全葉率)は曝露量に反比例して低下し、ハウス外ではより著しく発現した。光合成にかかる生理特性は前回報告の結果を裏づけた。細根率は曝露濃度に反比例して減少し、特にハウス外では有意に低下した。生長量はハウス内では対照区と比較して年間11%低下し、この環境が継続すれば5年後には生長量が対照区の約半分(56%)になると推定された。ハウス外では対照区と比較して年間5.2%低下し、5年間で対照区の25%の生長量の低下が予測された。以上の結果から前記の実験仮説は実証されたものと考えた。ハウス外では煤塵に加えて大気からの酸性降下物など大気の直接効果が作用し、実験地で多発する霧や露と関係するOHラジカルとの相互作用による生育阻害が示唆された。