| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-025
植物個体は成長とともに分枝を繰り返し、複雑なかたち(アーキテクチャ)を作る。これまで植物個体のアーキテクチャの発達プロセスとして、個体内シュート間の光環境の不均一性に焦点が当てられてきた。多くの研究で、個体内の異なる光条件のシュート間において光合成産物の転流がおこっている可能性が指摘されている。一方、窒素利用様式がどのように植物個体の分枝パターンに影響を及ぼすのかはほとんど調べられていない。植物は異なるシュート間で積極的に窒素を転流することで、枝の生死や成長を調節している可能性がある。こうしたシュート間における窒素の転流は、貧栄養条件下でとくに重要になるかもしれない。
本研究では、低密度条件下でオオオナモミを育て、栄養条件に応じた分枝パターン、個葉の光環境と窒素含量の関係を調べた。まず富栄養(HN)および貧栄養(LN)条件で育てたところ、HNでは分枝したものの、LNでは分枝しなかった。個葉の窒素含量と葉位とは強い相関がみられ、主軸、枝ともに古い葉ほど窒素含量が小さかった。一方、個葉の窒素含量と光環境の相関は弱かった。このことは、個々のシュートごとにシンク活性によって窒素分配が調節されていて、分枝個体では最適窒素分配は成立しないことを示唆している。
次に富栄養条件で育て、分枝が始まったあとに一部の個体の栄養条件を貧栄養に切り替えた(HNとH→LN)。HNでは生育期間を通して個体あたりの枝数も着葉面積も増加し続けたのに対し、H→LNでは栄養条件変化後に枝の死亡が起こり、個体の枝数および着葉面積は減少した。個体の高さには栄養条件による差はみられなかった。H→LNでは、枝につけていた葉を落とし、落葉から回収した窒素を主軸の葉に転流することで、主軸の成長を維持していると考えられた。これらの実験結果に基づき、窒素利用効率という観点からオオオナモミの分枝の意義について考察する。