| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-026

一次遷移初期の生産を制限する要因

*舘野正樹,黒田悠希(東大・院・理・日光植物園)

富士山の一次遷移初期では,イタドリが先駆植物として侵入する.この環境条件でどの元素が成長を制限しているかを明らかにするため,富士砂で育てたイタドリに施肥を行い,因子分析を用いて解析した.施肥は必須元素N,P,Kの3種類を組み合わせたNK,PK,PN,PNK,それにコントロールを加えた計5区画をセットして行った.NとPが両方とも含まれる施肥区分,すなわちPN,PNKでは,乾物生産が有意に促進された.しかし,そのほかの施肥区では,NもしくはPのいずれかが含まれている場合でも,全乾物重にコントロールとの有意差が見られなかった.NKとPKの比較では,NとPの制限の強さの相対的な差はなかった.また,相対成長速度も,NとPが両方含まれた区で最大になった.よって,NとPの間には富士砂で生育するイタドリ個体全体の成長促進における相乗効果があることが示唆された.これらの事実から,富士砂のような土壌が未発達で風化が進んでいない一次遷移初期環境の土壌(砂礫)では,植物体全体の成長はNとPの両方に制限されており,どちらかが欠けると,成長への効果が発揮できなくなることが分かった.また,PNとPNKの比較から,富士砂ではK制限も起こっていることが確認された.そのほか二種類の貧栄養土壌での実験においても,NとPの相乗効果が確認された.ただし乾物生産促進に関するこの相乗効果の程度には,3種類の土壌の間で差が見られる.富士砂と赤玉土ではコントロールとの有意差が+++であるが,川砂では+である.よって,土壌の発達度,もしくは母材の違いにより土壌中の栄養濃度パターンが異なると,この制限効果には変化が出てくる可能性がある.

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