| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-037

熱収支から考える林床草本の生存戦略

*岡島有規,野口航,寺島一郎(東大院・理)

林床草本で葉の厚さが種によって異なることには、どのような意味があるのだろうか?本研究では葉の厚さの違いが葉面積当たりの比熱容量の違いとなること、つまり薄い葉は厚い葉に比べて温まりやすく冷めやすいことに着目した。ほぼ一定の光環境下では葉温変化速度は無視できるが、射し込む光の強度が短時間に急変する林床の環境では、葉温の大きな変化が葉の熱収支を論じる上で重要となりうる。そこで、葉の厚さによる葉温変化の違いを調べるために、厚さの異なる葉について当たる光の強度や時間、境界層抵抗の大きさなどのパラメータの値を様々に変えて熱収支式を数値的に解いた。

現実的な環境条件の下、2000 umol m-2 s-1の光が10秒間当たると、厚さ0.75 mmの厚い葉で1.3℃、厚さ0.30 mmの薄い葉で2.9℃葉温が上昇した。この程度の温度上昇ならば、葉に与える影響はほとんど無視できると思われる。しかし、葉に光が100秒間当たり続けると、厚い葉の9.1℃に対して、薄い葉では13.9℃もの葉温上昇がみられた。私達は、薄い葉をもつ林床の草本では極度に強い光が当たると葉を傾けるという現象に、この急激な葉温上昇を和らげる効果があるのではないかと考えた。この仮説を検証するために熱収支式を解いたところ、角度の変化は入射光の量を減らすため、葉が高温になり過ぎるのを防ぐことに十分な効果があることがわかった。葉の傾斜が短時間に起こると上昇中の葉温が下降する場合もある。葉の角度は、熱収支式の主要な項である放射収支の値を直接的に大きく変化させることから、葉の厚さと傾きやすさとの間に何らかの関係があるかもしれない。

日本生態学会