| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-051

ブナ林冠木の個葉光合成特性における地理変異

*鍋嶋絵里(農工大), 日浦勉(北大・苫小牧研究林)

北海道黒松内から鹿児島県高隈山まで広く分布するブナは、個葉面積が南西から東北にかけて増大する地理変異を持っており、遺伝的にも太平洋側と日本海側で変異が存在することが知られている。春の展葉時期に残雪の多い日本海側では利用可能な水分量が多いが、残雪の少ない太平洋側では乾燥にさらされやすいことが個葉面積の地理変異をもたらす主な要因と考えられており、稚樹の光合成特性では、個葉面積の小さい太平洋側のブナで面積あたりの最大光合成速度が高く、乾燥や強光阻害に対する耐性も高いことが明らかにされている。一方、樹高数十mになる林冠木では、土壌から個葉までの水分通道経路が長いことなどから、個葉への水輸送が稚樹に比べて困難になりやすい。このような林冠特有の条件は、地理的な変異にどのように反映されるのだろうか?ブナは全国に広く分布する優占樹種であるため、ブナ林冠木での個葉光合成特性とその地理変異は各地の森林生態系のガス交換特性やその変動要因を明らかにする上で重要である。そこで、北海道黒松内、宮城県川渡、宮崎県椎葉の3カ所においてそれぞれ複数のブナ林冠木にアクセスするためのジャングルジムを設置し、Li-6400を用いた個葉ガス交換測定を行った。黒松内と川渡は日本海側の遺伝集団に、椎葉は太平洋側の遺伝集団に属することがわかっている。測定の結果、7月から8月にかけての個葉光合成特性として、面積あたりの窒素濃度は椎葉で高い傾向が見られた一方、面積あたりの最大光合成速度は椎葉で低く、黒松内で高いという傾向がみられた。発表ではこれらを含め、ブナ林冠木での個葉光合成特性の地理変異が、これまで稚樹などで得られている知見とどのように異なるかについて議論したい。

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