| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-054
森林における林冠からの蒸散は,与えられた大気及び土壌環境下で,その生理的作用の結果,気温緩和や降水源など周辺環境に影響を及ぼす。そのため樹木によって根圏より吸収された水が,葉を通して大気へ輸送される実態を明らかにすることは,森林と大気間の相互作用を理解するうえで重要な課題である。そこで本研究では,林分レベルの日蒸散量(樹液流法による),日蒸発散量(渦相関法による)及び蒸発効率の季節変化が気象,土壌の物理環境,葉面積指数によってどの程度影響されているのかを重回帰分析を使って解析した。観測は北海道大学雨龍研究林のダケカンバ二次林で行ない,2006年5月から10月までを解析の対象とした。林分レベルの日蒸発散量は,光合成有効放射量,地温及び水蒸気飽差の順に,日蒸散量は,これら3つの説明変数に加えて葉面積指数が選択された。一方蒸発効率は光合成有効放射量,葉面積指数及び水蒸気飽差の順に選択された。なおこれら蒸発散に関する3つの目的変数は,いずれも土壌水分量を選択しなかった。以上の結果から日蒸発散量は,光合成有効放射量及び飽差の増加に伴い,飽和する傾向が見られることがわかった。その原因として,胸高付近での樹液流測定によって得られる蒸散の日変化は,微気象学的手法で測定された蒸発散よりも遅れて応答するためと考えられる。このことは,梢端付近に蓄積された水が利用されてから,根元付近に蓄積された水が利用されはじめることを意味する。本研究により,個葉レベルでは観察できない個体レベル以上での蒸散メカニズムをより明確に示すことができた。この現象は広域の蒸発散量の推定を行う上で有効であると考えられる。