| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-068
オオバナノエンレイソウは両性花を持つ多年草で、種内に自家和合性(SC)と自家不和合性(SI)集団が存在する。過去に行ったSC集団における自殖性の適応的意義に関する研究では、高い自殖率を示すにも関らず、近交弱勢が非常に強く、花粉制限が無かったため、むしろ他殖に特化したほうが適応的であることが示唆された。この結果を支持するように、オオバナノエンレイソウではSCからSIへの進化が集団の地理的分布や分子系統的側面からも確認されている。このように、他殖が有利になる環境であるにも関らず、現在もSCを維持している集団が存在する理由として、既にSC集団がSIとは違う形で他殖性を獲得している可能性がある。野外観察により複数のSC集団で、雄蕊が矮小化した個体の存在を確認している。もし矮小化個体が両性から雌性に転換する形で他殖性を獲得しているとすれば、SCが維持されている理由や、近交弱勢の著しい強さを説明することができる。
本研究は雄蕊矮小化現象の基礎的な調査として、1)矮小化はどのような集団で、どの程度生じているのか、2)矮小化個体と正常個体で繁殖様式は異なるのか、を明らかにすることを目的とした。
矮小化個体の出現頻度は、集団間で差があることが示された。また、頻度と系統関係に関連性が無かったこと、SI集団でも矮小化個体が低頻度で出現することから、矮小化個体はSC・SIに関らず低確率で集団中に生じ、生育環境における自然選択によって頻度が増減すると考えられる。
種子生産は正常個体と矮小化個体の間で差が無かった。しかし、正常個体は大部分を自殖によって生産するのに対し、矮小化個体は他殖し、種子の質を高めることで正常個体よりも適応度が高いと予想される。
矮小化個体が実質的に雌として振舞うのであれば、オオバナノエンレイソウは従来考えられてきた画一的な雌雄同株ではなく、条件的雌性両全性異株になる可能性がある。