| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-080
東南アジア熱帯雨林の主要構成種であるフタバガキ科樹種については、多数の近縁種の同所的出現が、特徴の一つである。この種多様性の創出と維持に、遺伝的浮動と個体群内の遺伝的分集団化が関わるという仮説を立て、マレーシアサラワク州ランビル国立公園においてフタバガキ科樹種の遺伝構造とその形成要因の調査を進めている。公園内に設置された52 ha調査区内では、移動距離が長いミツバチにより花粉媒介されるDryobalanops属やDipterocarpus属では同所的近縁種が少なく、移動距離が短い甲虫により媒介されるShorea属では多い。この観測事実に基づき、ミツバチ媒の樹種に比べて甲虫媒の樹種では、遺伝子流動の範囲が狭く遺伝的分集団化が明瞭であると予想した。本講演では、東南アジア熱帯雨林の巨大高木であるリュウノウジュ(Dryobalanops aromatica)についての調査結果を報告する。調査区内で、胸高直径30 cm以上の個体を繁殖可能個体とし、その全個体の遺伝子型をマイクロサテライト解析により決定した。また4母樹の樹冠下において当年生実生からDNAを抽出し、同じく遺伝子型を決定した。得られた結果は以下の通りである。(1) 他殖率は0.72-1.00と、他のフタバガキ科樹種と同程度である。(2) 母樹と、その母樹が生産した種子の花粉親までの平均距離は、母樹によりばらつくものの、179.6 m-355.7 mとかなり長い。(3) 空間的な遺伝構造は不明瞭である。これは、花粉移動による遺伝子流動の範囲が広いことに起因するのかもしれない。(4) 50 m以下の短い距離スケールで集中分布する,対立遺伝子の組成が類似するグループが存在する。これは、種子散布距離が短いことに起因すると考えられる。