| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-081
里山には保護上重要な植物種が多く生育しているが、現在では大規模な伐採や植林により、これら植物種の生育環境が分断・孤立化している。人工林化は春期の光量低下により、林床性植物の繁殖力・生存力の低下を引き起こすと同時に、特に分散能力の乏しい植物種に対し、その新たな侵入・定着を制限することにより、その遺伝的な多様性を減少させていると考えられる。そこで本研究では、アリ散布植物で分散能力の低いと考えられているミヤコアオイを材料として用い、人工林化が林床性植物の遺伝構造に与える影響を明らかにした。
ミヤコアオイ(Asarum asperum)はウマノスズクサ科カンアオイ属の常緑性多年生草本で、近畿地方に広くみられる。調査は、滋賀県大津市の蓬莱山山麓に位置する落葉樹二次林2集団とスギ・ヒノキ人工林2集団にコドラートを設置して行った。各集団から葉を採取し、5酵素種(ADH、GOT、PGI、PGM、UGP)5遺伝子座を用いてアイソザイム分析を行い、本種の空間的遺伝構造の特性を調べるとともに、生育環境の違いによる遺伝的多様性と交配様式を比較した。
その結果、集団の空間遺伝構造解析から、血縁個体は4集団とも近距離(約1.5m)以内に集中分布し、また、得られた近交係数の値は4集団とも0に近い値を示し、ミヤコアオイは外交配を主体とする交配様式を持つことが明らかになった。Allelic richness(集団からランダムに数個体選んだときのヘテロ接合度の期待値)の値は人工林2集団ともに二次林2集団より低い値を示した。これらのことより、アリ散布植物で種子分散能力の低い本種は、人工林化により、その遺伝的な多様性が減少していることが示された。