| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-082

ミヤマトベラの交配様式と遺伝的特徴

*浜 一朗,齊藤陽子,井出雄二(東大院・農)

自家受粉による繁殖は、花粉不足の環境に対し保証機能がある一方、個体群の遺伝的多様性を減少させ、絶滅のリスクを高めると考えられている。マメ科常緑低木であるミヤマトベラは、暖帯林の林床に生育し、虫媒に適応した花構造である蝶型花を咲かせるにも係わらず、主に先行自家受粉による自殖を行い、種内の遺伝的多様性が著しく低いことが、我々のこれまでの研究からわかっている。この自殖性は、ポリネータ不足の環境において自殖が有利な自然選択を受けてきた結果である可能性がある。

ミヤマトベラとの比較のため、近縁種であるタイワンミヤマトベラの沖縄本島と西表島からの各1集団について、ミヤマトベラの核SSRマーカー13座を用いて遺伝解析を行った。その結果、西表島のタイワンミヤマトベラの集団の遺伝的多様性は、本州・四国・九州・韓国のミヤマトベラ16集団のどれよりも高かった。一方、沖縄本島集団の個体は、全て同じ遺伝子型に固定されていた。多型な座における近交係数FISはミヤマトベラの0.72±0.43SDに対し、タイワンミヤマトベラは0.18と低い傾向にあった。

また、ミヤマトベラの自然環境における他家花粉の不足を検証するために、千葉の個体群において訪花昆虫観察、除雄実験、花粉発芽実験を行った。訪花昆虫はトラマルハナバチが主であり、開花花のみに訪花していたが、ごく低頻度であった。葯の裂開前に除雄し自殖を排除したところ、結果率は自然状態よりも低下したものの結果が認められた。様々な発達段階の花から採取した花粉の発芽試験の結果、開花3日前から開花2日後までの花粉は発芽能を有していた。すなわち、先行自家受粉する花粉は、柱頭についた時点で既に発芽可能であり、たとえ他家花粉が運ばれてきても受精には至らない可能性がある。他殖が起こるためには、自家花粉の受精が阻害されるような何らかのメカニズムが必要と考えられる。

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