| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-084

3倍体種間雑種シラオイエンレイソウの形成に関わる生態遺伝学的要因

*石崎智美,大原雅(北大・院・環境科学)

植物の進化においては種間交雑、さらには形成された雑種の倍数化による種分化が数多く知られている。しかし、その一方で種間雑種を妨げ親種間の遺伝子流動を制限する生殖隔離も存在し、それらは生活史過程の様々な段階で連続的にはたらく。従って、様々な段階で生じる隔離機構を明らかにすることで、種間交雑の潜在能力ならびに実際の野外で生じている生態学的・遺伝学的な交雑の非対称性を検証することが可能である。

シラオイエンレイソウ(3倍体、不稔)はオオバナノエンレイソウ(2倍体。以下、オオバナ)とミヤマエンレイソウ(4倍体。以下、ミヤマ)の種間雑種であり、さらに先行研究ではオオバナが種子親、ミヤマが花粉親となり生じていることが報告されている。本研究ではこの一方向性の雑種形成の要因を明らかにするため、開花個体密度、開花フェノロジー、野外での雑種種子形成率(接合前隔離)、および雑種個体の生存率(接合後隔離)について検証した。まず、調査個体群の開花個体密度はオオバナとミヤマで差が無かったが、開花フェノロジーはミヤマのほうが早いため、オオバナの花粉を受け取りにくく開花フェノロジーによる隔離が大きかった。さらに、自然条件下で形成された種子をSSRマーカーを用いて調べたところ、オオバナのほうが雑種種子を作っている割合が高く、ミヤマにくらべ接合前隔離は小さかった。また、発芽・定着した雑種個体の生存率はミヤマを種子親とする個体で低く、やはり開花段階にはミヤマを種子親とする個体は存在しなかった。一方、オオバナを種子親とする雑種個体は生存率も高く、開花個体も存在した。従って、シラオイエンレイソウの形成過程における一方向性の存在は、ミヤマにおける大きな接合前隔離と雑種個体の生存率の低さによるものと考えられる。

日本生態学会