| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-086

ハクサンシャクナゲ野外集団における近交弱勢の評価

*平尾章,工藤岳(北大・院・地球環境)

植物では、自殖による繁殖成功の低下が様々な分類群で広く知られているが、自家花粉だけではなく、近隣個体を花粉親とした交配によっても適応度が低下する事例も報告されている。これは集団内に血縁構造が存在している場合、近隣個体間の遺伝的血縁度が近くなりやすくなり、二親性近交弱勢が生じるためだと推察されている。しかし近交弱勢と空間的な血縁構造との関係を直接的に示した例はない。本研究では、野外集団を対象に遺伝マーカー(マイクロサテライト6遺伝子座)を用いて交配親間の血縁度を推定し、生存率に対する近交弱勢の直接的な影響を明らかにしようと試みた。

2006年に東北大学植物園八甲田山分園内のハクサンシャクナゲ自然集団をマッピングし、自家および他家受粉処理をおこなった。あらかじめ遺伝マーカーで交配親間の血縁度を求め、他家受粉処理には近隣関係ではないが血縁度が近い組合せを含むようにした。3つの初期生活史段階 (結実期、発芽期、実生期)の生存率を測定し、交配親間の遺伝的血縁度と空間距離の影響を調べた。

その結果、いずれの生育段階においても生存率に対する交配親間の空間距離の影響は認めらなかったが、交配親間の血縁度の影響は結実期に明確に認められ、強い近交弱勢が生じていた。発芽期では近交弱勢は認められず、実生期では有意な近交弱勢は認められたものの、その影響は結実期よりも小さかった。花粉親の違いによる適応度の低下の支配的な要因は、遺伝的血縁度に基づく二親性近交弱勢であり、生活史段階によって近交弱勢の大きさが異なることが示された。

日本生態学会