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一般講演(ポスター発表) P3-094
自家和合性でありながら部分的他家受粉をおこなう混殖性が,進化的に安定な状態かどうかについては長い論争のテーマとなっている.ユリ属の多くは自家不和合性である.しかしジンリョウユリは柱頭と葯が離れている花形と,柱頭と葯が直接接している花形があり,他家受粉を行う「他殖型」と自家受粉を行う「自殖型」であると予想され,自殖と他殖両方を行う混殖性が示唆される.
さらにジンリョウユリはストレスの高い超塩基性土壌で,斜面が頻繁に崩壊し,ギャップ的環境が現れる不規則な環境変動を起こす蛇紋岩地帯に特異的に分布する.ジンリョウユリは蛇紋岩に対する化学的抵抗性を持つことが明らかになっており,他の植物よりも優位にギャップ的環境への侵入を繰り返す,パイオニア的な生活史を持つと予想される.ギャップ的環境への侵入・定着・衰退を繰り返す生活史の中では,送粉者の利用度が時間的に変動するため,自殖型と他殖型の両型が維持される可能性がある.
そこでジンリョウユリにおける「他殖型」と「自殖型」の多型が,ギャップへの侵入・定着・衰退を繰り返す生活史を通じて,送粉者の利用度の時間的変動の下で維持されているという仮説を検証する.
本発表では表題研究の第一歩としてジンリョウユリおよび近縁種ササユリの徳島県の各集団において,人工授粉実験,送粉者の特定,柱頭と葯間の距離の測定を行った.
その結果,ササユリが自家不和合性であるのに対し,ジンリョウユリから自殖による稔実性が確認され,自家和合性であることが確認された.さらにササユリの送粉者はスズメガであったが,ジンリョウユリはマルハナバチであり,両種の送粉者は異なっていた.また両種の集団内における柱頭と葯間の距離から,異なる分布が得られた.これら結果から,ジンリョウユリは,自家和合性を有利にする環境の下で進化したと考えられる.