| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-095

手取川水系に生育する交雑種オオミズヒキモとその両親種のフェノロジーと分布パターン

*山口順司,小藤累美子(金沢大学・院),木下栄一郎(金沢大学環日本海域環境セ)

手取川水系は石川県加賀地方に広がる扇状地を灌漑する水路網である。オオミズヒキモ(Potamogeton kamogawaensis Miki)が手取川水系で広範囲に分布していることが2001年に報告された。その後の研究で手取川水系のオオミズヒキモは、ヤナギモ(P. oxyphyllus Miq.)を母親、ホソバミズヒキモ(P. octandrus Poir.)を父親とする交雑種であることを遺伝的解析から明らかにした。手取川水系にはオオミズヒキモとその両親種であるホソバミズヒキモとヤナギモが生育しており、どのような交雑帯をつくりどのように分布しているのかは興味深い。そこで本研究ではオオミズヒキモとその両親種の繁殖・分散様式を明らかにすることを目的とし、オオミズヒキモとその両親種の季節消長フェノロジーの観察と水系全体の分布調査をおこなった。

フェノロジー観察の結果、栄養繁殖体である腋性の殖芽の形成がオオミズヒキモは9〜11月、ホソバミズヒキモは7〜9月であり、ヤナギモは形成しなかった。3種の花期は7〜9月で一致したが種子形成は確認されなかった。オオミズヒキモとヤナギモは常緑であったが、ホソバミズヒキモは夏緑であり11月以降はみられなかった。オオミズヒキモとヤナギモは地下茎を発達させたが、ホソバミズヒキモにはみられなかった。分布調査の結果、出現頻度はオオミズヒキモとホソバミズヒキモが高く、ヤナギモが低かった。水路環境でみるとオオミズヒキモが流量の大きい支線に、ホソバミズヒキモが流量の小さい小水路に多く出現した。出現地点での被度はオオミズヒキモとヤナギモが大きかった。

以上の結果から流水域である手取川水系では、殖芽による栄養繁殖が水路網を利用した分散に、地下茎の形成が定着と集団の拡大・維持に有利であると示唆された。

日本生態学会