| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-099
樹木の構造は、樹高成長速度、光の獲得、機械的強度などの機能を介して、樹木の適応度に大きな影響を与えていると考えられている。熱帯雨林においては、最大樹高や光依存性の異なる樹種間で、幹や樹冠の構造が有意に異なることが報告されており、そのような種間差が森林内の水平的・垂直的光勾配の分割に基づく多種の安定的共存を可能にしていると考えられている。しかし、温帯林における樹木の構造と生態学的特性の関係については報告例が少なく、成長段階や系統関係を考慮した大規模な研究例はなかった。本研究では、阿武隈山地の小川学術参考林において同所的に生育する30種を対象に、幹および樹冠の構造と最大樹高および材密度の関係を、成長段階および系統関係を考慮しつつ、検証した。
最大樹高の大きな樹木ほど、幹は細く、樹冠は小さい傾向が、稚樹から成木まで全ての成長段階で見られた。樹冠の深さと最大樹高の関係は弱かった。また、軽い材をもつ種ほど、樹冠が小さく浅い傾向が見られた。一方、材密度と幹の太さはほぼ無相関であった。以上の結果は、分子系統関係を考慮した解析においても同様であった。また樹高10mの木の幹の推定乾燥重量には、種間で7倍の差が見られた。
以上の結果は、森林の下層で繁殖する樹木や重い材を持ち耐陰性が強いと考えられる樹木は、光の獲得や機械的強度を優先した構造を、逆に林冠に達する樹木や軽い材を持ち耐陰性が弱いと考えられる樹木は、樹高成長を優先した構造を持っていることを示している。そのような関係は、熱帯雨林から報告された傾向とも一致しており、潜在的に多種共存を促進するものであると言える。また、幹の推定重量に見られたより大きな種間差やその材密度との関係性は、樹木の構造が、温帯林においてより重要な働きを持つことを示唆するものであった。