| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-100

ホスト樹冠における木本性つる植物の多様な戦略

*市橋隆自, 舘野正樹(東大・院・理・日光植物園)

つる植物の生態を考える時に、ホスト樹木の樹冠部における葉の展開と成長の仕方、ホストの成長と生存に与える影響を明らかにすることが重要であるが、現在までに定量的なデータはほとんどない。本研究では木本性つる植物4種(サルナシ、ツルウメモドキ、マツブサ、イワガラミ)を対象に、主に種間差に着目してホスト樹冠部における動態を明らかにすることを試みた。結果、(1)ホスト樹冠において、サルナシは相対受光量(ホスト樹冠上の光量を100とした値)80%以上(樹冠の上)、ツルウメモドキは50%前後、マツブサは30%以下(樹冠の中)、イワガラミは10%以下(樹冠の下)の環境に主に葉を展開していた。(2)ホスト樹冠のより上部に葉を広げるものほど、重量、茎長ともにより成長速度が大きかった。また最も大きな成長速度を示したサルナシでは、ホスト樹冠に達してから50年までの範囲で常に大きな増加を示したが、他3種では樹冠に達して20年以降の範囲で成長量(特に茎伸長量)が頭打ちになった。(3)ホスト樹冠の上部に葉を広げる2種では有意にホストの年輪幅が減少した。樹冠の上に出ない2種では有意な減少は認められなかった。(4)つる植物の根付いた地点から現在のホストとの接触点までの距離から、ホスト樹冠のより上に葉を展開する種ほど過去にホストを枯らした程度が大きいことが示唆された。(5)つる植物一個体が侵入しているホスト樹木の平均本数は、サルナシでは4本以上で他3種(1, 2本程度)よりも有意に大きかった。以上の結果から、ホスト樹冠の上に出ない種は現在のホストと出来るだけ長く生きようとし、ホスト樹冠の上に出るサルナシは生産的な環境で大きく成長し、常に新しいホストに広がっていくことで共倒れになるリスクを分散する、というように、つる植物の種によって異なる戦略をもつことが示唆された。

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