| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-107
実生は生活史の中で最も個体の定着と密接に関係している段階であり、種子の定着場所と実生の形態には何らかの関係があると考えられる。共存する樹木の間ではさまざまな地上部の形態が観察できる。しかし地下部形態の多様性を調べた研究例はまだ多くない。私たちは、根系構造をふくめた樹木実生に着目し、生育場所や耐陰性、種子サイズの異なる樹種間の傾向を明らかにすることを目的として2つの森林タイプにおいて実生期の地上部・地下部の形態的適応性および重量分配特性について調べた。
調査は2006、2007年の夏期に北海道大学苫小牧研究林のカンバ類、カエデ類等が優占する落葉広葉樹林と屋久島南西部の照葉樹林にて10月〜11月に行なった。それぞれ被陰されない林道脇と暗い林床に生育する樹種を選択した。各個体を掘り取り、地上部、地下部の高さ(深さ)と幅長を測定し、根、葉、枝に分割して乾燥重量、および種子の乾燥重量を測定した。地上部と地下部へのバイオマス分配様式とそれぞれの形態における重量、種子重、サイト間、耐陰性の効果を検証するために階層ベイズモデルを用いた解析を行なった。このモデルでは多樹種を対象にした樹種間共通部分や種間差、個体差を同時に考慮する事が可能であり、パラメーターの事後分布を用いて全体と樹種の傾向を推定できる。
地上部・地下部バイオマスは森林タイプに関係なく個体サイズの増大に伴って地上部への分配が増加する傾向が見られた。また、種子重と根系形態には相関が見られ、大サイズの種子は主根系、小サイズの樹種は側根系を展開することが示唆された。重量分配への耐陰性の影響は森林タイプで正反対であり、落葉樹と常緑樹に特異的な特性だと考えられる。これらの結果から、樹木がサイトに関係なく実生段階で取り得る形態の多様性と普遍性が共通に存在する可能性があると考察した。