| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-108
樹木を構成する基本成長単位である当年枝は、同化部(葉身)と非同化部(茎・葉柄)からなる。高木になると先端までの水輸送が困難になるという生理的メカニズムに基づいて、樹高成長の研究が進んでいる。また、樹木個体内で生じる光勾配に適応して、シュートレベルで短枝・長枝の分化や、陽葉・陰葉の分化が生じている。その一方で、光制約のない状態での当年枝特性の樹高依存性についてはあまり解析されていない。樹木の高さ成長に伴って単位土地面積あたりの葉量は変化せず、幹量は増大するという集団レベルでの物質分配特性の観点から、当年枝で資源がどのように三次元的に分配されるか、について注目した研究が必要である。
本研究では、光制約のない状態での潜在的な当年枝特性の樹高依存性を抽出するために、以下の調査と解析を行った。2006年7〜8月に北海道大学苫小牧研究林において、他個体に被陰されていない明るい環境下に生育する落葉広葉樹13種の個体(樹高1-23 m)の樹冠頂部からひとつの当年枝を採取し、葉乾燥重量、茎・葉柄乾燥重量、葉面積、茎長、茎基部直径の測定を行った。当年枝における「葉と茎・葉柄への重量分配」、「葉重の面積への展開」、また「茎重の長さ・太さへの分配」の樹高依存性を調べるために、潜在変数をもつ階層ベイズモデルを開発した。このモデルは当年枝特性の種間共通部分、種差、個体差を同時に考慮するものである。Gibbs samplerを使って推定したパラメーターの事後分布から、樹高の増大に伴って当年枝内での葉重量への分配は増大、SLAは減少、そして茎の太さへの投資は増大するという、多くの種に共通する連続的な挙動が抽出された。樹高に依存して可塑的に変化する当年枝の形態形成パターンが、樹木の成長を制約する要因となっていることが示唆された。