| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-114
食うものと食われるものの関係では、食う側の「武器」の進化が食われる側の「防御」の進化を促し、軍拡的な「共進化」が進行していくことがある。この進化過程は「軍拡競走」と呼ばれ、自然界にみられる様々な形態的・化学的な武器や防御の存在を説明する理論として注目を集めてきた。しかし、自然界においてこうした軍拡競走がどれほどの速さで起こるのか、従来の共進化研究では問われてこなかった。そこで本研究では、種子食性昆虫のツバキシギゾウムシとその寄主植物であるヤブツバキの軍拡競走において、共進化の速度を推定した。このゾウムシは、ツバキ果実内の種子に産卵するため、極端に長い口吻でツバキ果実を穿孔する。一方、ツバキは種子を守る厚い果皮を進化させることで、進化的に対抗している(Toju & Sota 2006 Am Nat)。ゾウムシのmtDNAの塩基配列の集団遺伝学的解析から、口吻長が大きく異なるゾウムシ集団(9~21mm)がわずか14,000年の間に分化したことが示唆された。集団間にみられるゾウムシ口吻長とツバキ果皮厚の集団間変異をもとに、この14,000年間における両者の進化速度を「darwins」と「haldanes」という指標で推定した。さらに、14,000年間の各世代でゾウムシ口吻とツバキ果皮に働いたと推定される「平均的」な自然選択の強さ(haldanes / 遺伝率)を計算した。その結果、14,000年間に働いたとされる平均的な自然選択は、実験室および野外において観察された自然選択(選択勾配解析で定量化)よりもはるかに弱いことが明らかになった。これは、口吻長や果皮厚に働いている自然選択の方向が14,000年の間にたびたび入れ替わったか、両形質がすでに(共)進化的な平衡に達していることを示唆している。後者の仮説が正しいとすれば、野外において軍拡競走が非常に急速に起こっていることになる。