| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-117
森林性ネズミ類は冬期間の食料として、ドングリ(コナラ属堅果)をよく利用していることが知られている。本研究の調査地である茨城県北部の小川学術参考林ではコナラ属だけでなく、ブナ類やクリといった他のブナ科やシデ類、カエデ類、サクラ類等の樹木が生育している。このようなドングリ以外の果実を食料として得られるような生息環境において、ネズミ類は冬の間、何を食べて生活しているのだろうか。夜行性のネズミ類の食料を野外で調べることは難しい。これまで、冬の間の食料は主に捕殺個体の胃内容物から明らかにされてきた。しかし本研究では、非捕殺的に、林床に設置した人工の埋設式巣箱に残された餌の破片を調べることで、明らかにした。調査は小川学術参考林のブナが優占する成熟した二次林に1haの調査地を設け、1998年秋、林床に61個の埋設式巣箱(以下、巣箱)を設置し、翌年から春と秋の年2回、内容物を回収した。この巣箱は、ネズミ類の採餌場所として重要な木の洞や倒木下といった林床の小空間を再現したものである。また、ネズミ類の生息数を記号放逐法で推定した。巣箱は調査地に生息するアカネズミとヒメネズミにより利用された。巣箱の利用率はどの回収時期も78%を超えていた。巣箱の内容物(枝葉以外)は主にコナラの種皮と果皮であった。他に昆虫の破片、他樹種果実の破片(ブナ、イヌブナ、ハクウンボク、サクラ類、ミズキ、アカシデ、イヌシデ、イワガラミ、ハリギリ、カエデ類など)が巣箱に残されており、餌メニューが多様であることがわかった。このように多様な冬の餌メニューは、ドングリが不作でもネズミ類の個体数が維持される要因であると考えられた。