| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-119

天敵が誘導する植食者の形質変化と栄養カスケード

内海俊介, 大串隆之(京大生態学研究センター)

植物―植食者―捕食者の三者系において、捕食者が植食者の密度を減少させることによって植物のバイオマスに正の効果を与えるトップダウンカスケードの存在が古くから知られている。近年このようなカスケード効果において、植食者の密度の減少だけではなく、捕食者による植食者の回避行動などの誘導を介した形質介在型の間接効果が重要な役割を果たすことがしばしば指摘されている。そのような間接効果を検証した研究例はいくつか存在するが、植食者の行動形質の変化によって、植食者の成長や摂食量がどのように変化するかを実際に明らかにした研究はほとんどない。

そこでわれわれは、ハナグモ−ヤナギルリハムシ−ジャヤナギの三者系をもちいて、(1)クモがハムシ幼虫の行動形質をどのように変化させるか、(2)それによってハムシの生存や成長パタンはどのように変化するか、(3)ヤナギの摂食量はどのように変化するかについて明らかにするための室内実験を行った。実験では、ハムシ+クモ(捕食処理)、ハムシ+ネットで覆ったクモ(リスク処理)、ハムシのみ(コントロール)の三処理を施し、ハムシの行動・生存率・蛹化までの日数・蛹重量・摂食量について比較した。

その結果、捕食・リスク処理によって、ハムシ幼虫は回避的な行動を示した。捕食処理によって生存率は著しく減少したが、リスク処理では生存率は変化しなかった。しかし、リスク処理によって、コントロールに比べて蛹化までの日数が長くなり、蛹重量が低下した。さらに、蛹化までのハムシ一個体あたりの摂食量が低下した。

したがって、クモの存在がハムシの行動形質の変化を誘導し、その結果としてハムシの成長に対して負の効果を与えると同時に、ヤナギへのハムシの摂食率を低下させることが示唆された。

日本生態学会