| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-128
サドノウサギ(Lepus brachyurus lyoni)は佐渡島にのみ生息しており,近年減少傾向にあるため準絶滅危惧種に指定されている.今回,サドノウサギが餌資源の乏しい冬期に利用する環境と餌植物を推測することを目的とした.
調査はサドノウサギが利用している環境を把握するために足跡調査を行い,また食性を把握するために食痕調査を行った.足跡調査は植生タイプごとに雪の上に残された足跡の始点と終点を対角線とする正方形の面積当たりに何メートルの足跡があるかを測定し,1ha当たりのノウサギの利用距離(m/ha)に換算した.同時に調査地において,種名,直径,樹高,BA,林冠閉鎖率を調べ,サドノウサギの餌と考えられる低木についても調べた.また食痕調査は,林道沿いの一定面積当たりの植物の種名,枝の直径,樹高,枝に含まれる粗タンパク質量を調べ,その種類本数と食痕の本数を数えた.
足跡調査から得られたサドノウサギの利用距離(m/ha)と平均樹高,平均直径,1.5m未満の低木密度,BAの関係を調べたところ,樹高,平均直径,BAは,高くなる程ノウサギの利用距離が有意に減少した.また,低木密度が増加する程BAが有意に減少したため,サドノウサギは樹高が低く,直径が細い,低木の多い場所を好んでいると考えられた.また,森林の林冠閉鎖率が増加するほどノウサギの餌と考えられる低木密度が減少した.さらに食痕調査から,サドノウサギは直径0.5〜1.0cm程度の細い樹木の枝を選択的に食べていることがわかった.これは,太い枝は硬く,食べにくいことが原因だと考えられる.その上,食痕が確認された低木の枝に含まれている粗タンパク質量と被食率の関係を調べたところ粗タンパク質の多い低木を選択的に食べていることがわかった.
以上のことから,冬期にサドノウサギの好む環境は,餌となる低木が多く存在し,樹高が低い,若齢林だと考えられた.