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一般講演(ポスター発表) P3-129
本研究の目的は,河口域でヨシ原を形成する基盤植物ヨシと藻食性巻貝ヒロクチカノコによる双方向の密接な関係を明らかにすることである.特に,知見の少ないヨシ(原)と巻き貝の相互関係,ヨシ原生態系における藻食性巻き貝の役割について紹介する.
塩性湿地を形成するヨシ原は,河口域特有の生態系であり,干潟と一体となり存在する場合が多い.日本においてヨシ原がどれくらい失われたか定かではないが,戦後,日本の干潟の40%が失われたことを考えると,同程度の喪失が起きていることは想像に難くない.ヨシ原が失われることで,当然そこにすむ生物も住み場所を追われる.本件で扱う巻き貝ヒロクチカノコに関しても,全国のレッドデーターブックの汽水・海産軟体動物の中で最も頻繁に(12回)掲載されている種であり(木村2005),減少が著しい.ところが,その生態に関する情報は皆無で,ましてやヨシ原との相互関係,ヨシ原生態系におけるその役割は全くの未知である.
一方,四国三郎,吉野川河口干潟のヨシ原には,ヒロクチカノコはごく普通にみられ,健全な個体群が存在する.そこで,ヨシの基盤生物としてのヒロクチカノコへの影響を明らかにするために,1.大規模分布調査,2.野外成長実験,3.産卵場所選択実験,4.安定同位対比による餌資源の解明を行った.また,逆にヒロクチカノコからヨシ(原)への影響を明らかにするために,5.ヒロクチカノコによるヨシの落ち葉分解測定,6.ヨシの落ち葉現存量モニタリングを行った.
以上の結果,ヨシ(原)は,ヒロクチカノコの好むシルト分や水たまりを作り出す生息の場を提供するだけでなく,餌基質(葉・枝)の供給源・蓄積の場,さらには産卵基質としての役割を持つことが明らかになった.一方で,ヒロクチカノコの摂食活動がヨシの落ち葉分解を促進しており,ヨシ原生態系において分解者としての役割を持つことが明らかになった.