| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-132

ニホンリスのオニグルミ採食技術における地理的変異

田村典子 (森林総研・多摩)

ニホンリスはオニグルミ種子を餌として好んで利用することが知られている。かれらはオニグルミの堅い殻を割る独特の技術を持っているため、効率的に中の可食部分を利用することができる。本研究では、オニグルミが多く自生する東京都西部の高尾山周辺の個体群と、オニグルミが自生しない山梨県富士山の標高1300m付近の個体群とで、クルミ割り技術を比較した。それぞれの地域で捕獲した個体を実験室内の個別ケージで飼育し、一日3個ずつオニグルミを10日間与えて、採食所要時間、クルミ割り成功率を調べた。高尾個体群では、12個体全てが半分割するリス特有のクルミ割り技術を持っており、平均採食所要時間は14.5分〜30.7分、成功率は63%〜100%であった。一方、富士山個体群では調査した8個体のうち、クルミ割り技術を持っていた個体は2個体のみであり、残り6個体は一度も半分割することが出来なかった。半分割できた2個体の所要時間は25.6分および21.6分で、成功率はそれぞれ21%、95%であった。半分割できなかった富士山個体群の6個体を、高尾山個体群と隣接して6週間飼育した結果、1個体のみが半分割することが出来るようになり、88%の成功率になったが、残り5個体の採食技術に変化は認められなかった。以上より、ニホンリスによるオニグルミ採食技術は個体群間で違いがあり、オニグルミが自生する環境で生息するニホンリスでは、クルミ割り技術を持っている傾向が認められた。また、クルミ割り技術は他の個体から学習する可能性があることも示唆された。

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