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一般講演(ポスター発表) P3-135
湖沼の二酸化炭素分圧は10〜10000ppmvと大きく変動するが、今後予測されている大気二酸化炭素分圧の上昇は、湖沼の二酸化炭素分圧を更に上昇させると懸念されている。これまでの実験によれば、緑藻種や珪藻種を高い二酸化炭素分圧下(2000ppmv)で培養すると、リンなどの栄養塩含量が低下するため、それらを単独で餌とした場合の藻食者(ミジンコ:Daphnia)の成長速度は低下すること、しかし、これら藻類種を藍藻類(シアノバクテリア)等と混合培養して餌とした場合には、藻類全体の栄養塩含量の同様な低下にも関わらず、ミジンコは高い成長速度を維持することが示されている(Urabe & Waki, in prep.)。この結果は、二酸化炭素分圧上昇に伴う個々の藻類種の質的低下が、他の餌となる藻類種の存在によって緩和されることを示している。しかし、その多様な藻類種によるミジンコの成長速度低下の緩和がどのような機構によるかは明らかではない。そこで、本研究では、この緩和機構を具体的に明らかにするため、二酸化炭素分圧上昇に伴う緑藻・珪藻・藍藻類の化学量比や成長に必須な脂肪酸含量の変化を分析するとともに、14Cと32Pを標識としてミジンコの摂食速度や同化速度に及ぼす餌藻類の種構成の影響を調べた。その結果、ミジンコの成長速度は餌全体のリン含量や脂肪酸組成とは有意に相関しないが、リンに対する同化速度と強い比例関係にあり、特に、多様な藻類種が存在すると摂食速度やリンに対する同化効率が高くなることが分かった。餌となる藻類の多様性は、藻食者の摂食・同化活動や消化酵素活性を変化させることで、藻食者に対する二酸化炭素分圧上昇の悪影響を緩和させることが示唆された。