| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-141

ニホンザルによる放飼場内植生の樹皮食と選択性

竹元博幸(京大・霊長研),大沼学(環境研・基盤ラボ),山内志乃(京大・霊長研),千田友和(京大・霊長研),須田直子(京大・霊長研),松林清明(京大・霊長研)

放飼場の樹木植生に対するサルの樹皮食の選択性を調べ、一部の樹木に関しては樹皮の化学成分を比較した。

調査は2群56頭が飼育されていたおよそ9,000m2の屋外放飼場でおこなった。14種504本の調査対象樹木に対し、6種85本の樹に樹皮食が認められた。樹皮食の程度には種ごとに違いがあり、特にサカキ(Cleyara japonica)とヒサカキ(Eurya japonica)の樹皮が多く採食されていた。ただし現存量を考慮した採食の選択性ではサカキがもっとも高く、ヒサカキは採食される6種の中で一番低いという結果になった。

両種は同じツバキ科の常緑小高木で、樹皮の特徴も似ていることから、選択性の違いは樹皮の化学成分に起因すると考えられる。そこで一般栄養分析およびタンニンの分析をおこない、両種を比較した。一般成分については、両種に大きな違いは見られなかった。サカキはヒサカキに比べややタンパク含量が低く、タンパク/粗繊維比もヒサカキの11.7に対し、10.8と低かった。一般成分の分析結果からは、ヒサカキがサカキよりも選択性が低い理由は特にないと思われる。

両種の樹皮のタンニン含量には違いが見られた。サカキ(平均0.47%)はヒサカキ(平均0.87%)よりもタンニン含量が低かった(U検定、z=-1.96、p<0.05)。多くの哺乳類はタンニンの有する渋みを忌避することが報告されており、飼育ニホンザルも同様の傾向をもっていると考えられる。また、野生ニホンザルにおいても冬季、樹皮が重要な食物となっている地域もあり、好まれる樹種がある程度決まっている。このような樹皮食の選択性には、カロリーやタンパク質含量だけでなく、タンニン類などの二次代謝産物が影響を及ぼしている可能性も考えられる。

日本生態学会