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一般講演(ポスター発表) P3-143
ツキノワグマ(以下クマ)にとって堅果は、冬眠を控えた秋期に利用する食物の中でも重要な位置を占めるものと考えられている。しかし、堅果類の結実は年によって大きく変動することが知られており、最近はその変動がクマの人里への出没の程度となんらかの関係があると指摘されている。そこで堅果類の豊凶がクマの秋期の土地利用にどのように影響するかを明らかにする一環として、堅果類の林分の中で、クマが利用する木としない木の間にどのような違いがあるのかについて、特に結実の豊凶程度に注目し検討した。
栃木県足尾山塊でGPS首輪により2007年に行動追跡されたクマの集中利用域において、堅果類の内、クマ棚などの利用痕跡が存在する木とクマによる痕跡がまったく存在しない木について、毎木の周長および堅果の豊凶程度を調べた。周長はクマにとっての登り易さが、豊凶程度はエサ資源の量がクマによる当該木の利用の有無に関わると仮定した。2007年は栃木県足尾地域全体でミズナラの結実が良好であったが、同時期・同地域のクマの集中利用域はミズナラが優先する林であることが確かめられた。それらミズナラの林分内で、痕跡のある木とない木の間には周長差は認められなかったが、痕跡のない木に比べ痕跡のある木の方が結実が良い傾向にあった。これらのことより2007年秋期にクマはその年に生息地で結実が良好な樹種が優先する林分を利用し、さらにその林分内でもより結実の程度が良い木を選択して利用している可能性が示唆された。今後はミズナラが地域全体で広範に不作の年などに、今回確かめられた傾向が変わるのかといったことや堅果の豊凶程度が行動圏の位置や大きさなどにどのように影響するのかを検証する必要があるだろう。