| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-144
日本では「しらがたろう」、海外では"Emperor Moth"とも呼ばれるクスサンは、その旺盛な食欲ぶりから街路樹や緑化樹の食害虫として有名である。食草として最もよく知られているのはクリだが、トチノキ、コナラ、クスノキ、イチョウ、アメリカフウなどその食性は非常に幅広い(福山1994)。本州でのクスサンによる食害被害の報告は、市街地での小規模なものがほとんどであるが、北海道では落葉広葉樹の天然林において比較的大規模な発生がたびたび報告されて来た(福山1994)。1991年、これまで発生が確認されていなかった樹種であるウダイカンバで始めて大規模な発生が報告されて以来、北海道ではたびたびウダイカンバでの発生が報告されている(大野2003)。しかし、クスサンによる食害によってウダイカンバ林は実際どの程度の被害を受けるのか?また、地域によってなぜ食性が異なるのか?という疑問は解決されていない。
本研究では、2006年、2007年ともにクスサンの大発生が見られた北海道空知郡奈井江町内のウダイカンバ林において、その被害状況と食害による葉質の変化を調べた。また、クスサンによるウダイカンバ被害が報告されている北海道と、ウダイカンバでの被害が報告されていない岩手県のクスサン地域個体群において、潜在的な食性の違いがあるかを検証するために飼育実験を行った。その結果、クスサンの発生が認められた北海道のウダイカンバ林では、2006年、2007年ともに二次開葉が見られた。また、2007年には葉のサイズや当年の伸長量が前年と比較して小くなった。北海道と岩手県、それぞれの地域個体群で、4種類の樹木葉を与える飼育実験を行ったところ、両個体群ともウダイカンバ葉を与えられたグループで最も生存率、成長率が高く、トチノキ、サワグルミと続き、シラカンバでの生存率が最も低かった。