| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-145
葉食性昆虫による食害に対する植物の反応の研究は、これまでに個体に対するインパクトが小さい葉レベル、枝レベルでの弱い食害を模した切葉実験が主に研究されてきた。しかし、葉食性昆虫の大発生は北方森林生態系においてしばしば観察されており、林冠木個体の大部分の葉が食べられる強い食害が生じることがある。本研究の目的は、葉食性昆虫の大発生を模した林冠木個体の全切葉実験を行い、(1)大発生の効果が植物の成長と葉形質にどのような影響を与えるのか?また、(2)その変化した葉形質が葉食性昆虫群集にどのような影響を与えるのか?を解明することである。
本実験は北海道大学苫小牧研究林の林冠観測用ジャングルジムを使用して、2006年7月上旬にミズナラ林冠木個体(高さ:9〜13m)に対して全切葉処理を4個体に施し、隣接する未切葉(未処理)の4個体とともに、その後の反応を1ヵ月後、1年後、1年半後で調査した。
その結果、1ヵ月後の植物の成長は全切葉処理で補償成長が生じて活発に伸長したが、葉量に違いは見られなかった。一方、葉形質の被食に対する物理的防御であるLMA、化学的防御物質である縮合タンニン量は減少した。また、窒素含有量は減少した。葉食性昆虫の反応において、咀嚼性昆虫による食害度は増加したのに対し、ゴール形成昆虫の密度が減少した。また、各摂食機能群の昆虫の占める割合が変化した。1年後、1年半後では、植物の成長、葉形質において違いは見られなかった。一方、葉食性昆虫の反応においては、各摂食機能群の昆虫の占める割合が変化した。
以上のことから、全切葉処理は植物に補償成長を起こさせ、葉形質の変化を介して、葉食性昆虫群集の構成を変えている可能性が示唆された。