| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-147
大型草食動物に対する植物の被食回避戦略として形態の矮小化がある。これまで、遺伝的に決定される矮小形態に注目した研究例は多い。しかし、遺伝的に固定した矮小形態は植物間の競争では不利になる上、採食圧は時間的・空間的に変動する。したがって、周囲の環境(採食圧や競争圧)に応じて矮小形態か標準的形態を示す性質(表現型可塑性)の役割についても着目されるべきである。また、その可塑性自体に遺伝変異があれば、特定の遺伝子型または集団の個体のみ可塑的に矮小形態を示す可能性もある。
一年草イヌタデを対象にして、矮小形態に対する表現型可塑性と遺伝的要因の影響、および矮小形態の適応的意義について解析を行った。
被食歴の異なる3集団から種子を採集し、共通環境で栽培した。被食歴の長い奈良公園由来の個体は、被食歴のない三輪、平城宮跡の個体と比べ、葉、茎のいずれも極度の矮小化を示した。一方で、分枝数・花序数は多かった。また、切除処理および貧栄養処理を施すと、どの集団の個体も処理をしない個体と比べ小型化した。このことは、矮小形態は遺伝的に決定されているうえに、環境に応じて可塑的にも生じることを示唆する。ただし、可塑性の程度は集団間にほとんど違いはなかった。また、移植実験の結果、奈良公園集団が示す矮小形態は、被食環境下で適応的であることが立証された。