| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-148
キタドロバチ属は、便乗ダニを巣から巣へ運ぶための外部形態アカリナリウムを持つことで知られる。便乗ダニ・アトボシキタドロバチヤドリコナダニ(Ensliniella parasitica)の第二若虫は、アトボシキタドロバチ(Allodynerus delphinalis)のメス成虫が営巣する際に、アカリナリウムからホストのセル(育房)へと侵入する。便乗ステージは全く摂食しないが、セルの中で直ちに第三若虫〜成虫へと脱皮し、ホストのプレイ(キバガ科幼虫)〜4齢以降のホストの体液を吸う寄生者である。ダニの生活環とホストの発育はよく同調しており、ホストの蛹化直後にダニは体表面に産卵し、卵は幼虫、第一若虫を経て、羽化の48時間前〜24時間後までに第二若虫に脱皮する。第二若虫はホストの羽化に合わせて、アカリナリウムに殺到する。セルに入るダニ数は平均6.5頭程度であるが、ハチ幼虫の発育、死亡率、成虫の営巣率、産卵数にほとんど影響を及ぼしていなかった。ところが、実験的に30頭を超える過剰なダニをセルに導入すると、ハチ幼虫は死亡するか、顕著な発育の遅れを呈した。このような寄生性のダニも、いったんセル内で寄生蜂(Melittobia acasta)に遭遇すると寄生蜂の脚にとりつくなど、盛んにハラスメントを行う。寄生蜂が弱るとハラスメントはエスカレートして、ついには寄生蜂が死亡することもあった。一方、寄生蜂のダニに対する反撃も観察され、ついにはダニが全滅することもあった。セル内ではどちらかが死亡するまで攻撃が繰り返され、勝者はセル内のダニ数によって決まっていることがわかった。従って、寄生性のダニはホストのアトボシキタドロバチにとっては用心棒であり、アカリナリウムはダニを安全に運ぶことと、セル内に入るダニ数をコントロールするために発達したと推測された。