| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-153

ミカワオサムシの系統地理と交尾器形態の分化

長太伸章(京都大・院・理), 久保田耕平(東京大・院・農), 高見泰興(京都大・院・理), 曽田貞滋(京都大・院・理)

系統地理解析は種内の歴史など最近の分化過程を復元することに適しており、近縁な分類群での生殖隔離や適応をもたらす形質の分化過程の復元や、地形・地史の影響を評価することが可能である。特にミトコンドリアDNAは浸透の影響を受けやすいなどの問題点はあるが、進化速度が速いため系統地理解析には適している。

日本固有のオオオサムシ亜属では交尾器形態の違いによる機械的隔離がみられるが、形態の分化過程はわかっていない。東海地方を中心に分布するミカワオサムシは種内の地域集団間で体サイズや交尾器形態に大きな変異が見られるため、本種を解析することで生殖隔離にかかわる形態の分化過程を復元できると期待される。本研究では分布域全体をカバーする63集団からオサムシを採集し、オス359個体について形態解析を行った。さらに、1051個体のミトコンドリアDNA ND5遺伝子の1020bpの塩基配列を決定し、系統地理解析を行った。

形態解析から、ミカワオサムシは体長・交尾器とも大きいグループと小さいグループの二つに分かれた。これらのグループは地理的にも分かれて分布していたが、グループ間の遺伝的分化は小さかった。系統地理解析からは、両グループとも海岸に近い地域が過去に分断されていたことが推定され、この分断は12万年前の最終間氷期の海進と関係があると考えられた。また、それぞれのグループの有効集団サイズとグループ間の分岐年代を推定した。その結果、それぞれの有効集団サイズには大きな差があり、2グループ間の分化年代は約17万年前と推定された。系統地理解析から推定された分断は両方のグループに影響しているため、交尾片の分化はこれらの間の約5万年のうちに起こったと考えられる。

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