| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-156

クワガタムシ科における雌の繁殖形質の進化

*棚橋薫彦,久保田耕平(東大院農)

希少種の保全において,対象となる種の適応度を調べることは重要である.生物の適応度は,産卵(産仔)数,生存率,および世代期間などの様々なパラメーターによって決定される.生存率と世代期間を野外の昆虫を対象に調べることは困難であるが,産卵数については雌の生殖器官の形質から比較的簡単に推定することができる.昆虫においては,産卵数は一般的に卵巣小管数と関係する.したがって,産卵数を直接調べることが難しい場合には,しばしば卵巣小管数がその有用な指標として用いられてきた.

演者らは,希少種や固有種を多く含む日本産クワガタムシ科20種とそれに近縁のクロツヤムシ科1種において,雌の体重,卵巣小管数,卵体積,および卵巣形態を調査し,16S mtrRNAによる既存の系統樹 (Hosoya and Araya, 2005) と比較した.卵巣小管数は系統群ごとに大きな不連続性を示し,祖先的な系統では12 (6 + 6), 派生的な系統では24 (12 + 12) または42前後 (21 + 21)であった. 系統群内または種内で変異はほとんど見られなかった.そのため,卵巣小管数はこのグループの上位分類における繁殖形質の進化を議論するうえで重要であると考えられた.一方で,繁殖投資量として卵体積と卵巣小管数の積をとった場合,繁殖投資量は雌成虫の体重と有意に相関した (N = 11, R2 = 0.86).したがって,クワガタムシ科においては卵サイズと産卵数にトレードオフが存在し,大卵寡産から小卵多産への不連続な進化が起こったことが示唆された.

日本生態学会