| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-157

ササ・タケ・ススキに寄生するスゴモリハダニ類の分子系統〜防衛形質とのリンク

*伊藤桂 (JST高知/高知大・農), 福田達哉 (高知大・農)

植物の葉を吸汁するハダニ類のなかで、ササ・タケおよびススキの葉に生息するスゴモリハダニ属は独特な捕食防衛戦略を進化させた一群である。成虫や若虫は、葉脈上や葉の辺縁に濃密な巣網を張り、その中で摂食・産卵を行う。ササ・タケ類に寄生する一群について、日本では4種(ケナガスゴモリハダニ、タケスゴモリハダニ、ササスゴモリハダニ、ヒメスゴモリハダニ)が記載されている。これらの種は、大きくて複数の世代が同居する巣を作る種(ケナガ、タケ)から、小さな巣を分散させて作る種(ササ、ヒメ)があり、それぞれ異なる捕食者に対して効果的であることがわかっている。また、それぞれの種の巣の大きさは、メス成虫の背中の毛の長さと正に相関することが知られている。一方、ススキスゴモリハダニには、天敵に対する防衛行動が異なる二型(HG型,LW型)が存在する。防衛戦略が異なるこれらの種がどのように進化してきたかは興味深い問題である。

先行研究で、核の28S領域を用いた系統解析がなされているが、変異が限られているために種内レベルの解析は十分ではなかった。そこで本研究では、より変異の多いミトコンドリアのCOI領域と、核のITS2領域の塩基配列に基づく系統解析を行った。その結果、ササ・タケ寄生の種については、記載されている4種を含む5つ以上のクレードに分岐し、潜在的な系統が存在することが示唆された。また、形態形質(背中の毛の長さ)をもとにタケスゴモリとササスゴモリと同定された個体群は単系統にならず、防衛戦略の進化過程が複雑であることが示唆された。さらに、いくつかの個体群については、COI系統樹とITS2系統樹で属するクレードが異なり、雑種由来の可能性が示唆された。一方、ススキの二型については、どちらの領域を用いた場合でも独立したクレードを形成した。これらの結果にもとづき、進化過程について議論する。

日本生態学会