| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-158

アカリナリウム(ダニポケット)を持つアトボシキタドロバチと寄主特異的寄生ダニその2−アカリナリウムの構造と進化−

*牧野俊一(森林総研),岡部貴美子(森林総研),James M. Carpenter (American Museum of Natural History)

ダニと昆虫との間に見られる共生関係の中でも、ドロバチ類(ハチ目)とダニとの関係は最も親密なものの一つである。彼らの関係はしばしば互いに種特異的である。アトボシキタドロバチ(Allodynerus delphinalis: 以下アトボシ)が宿すアトボシキタドロバチヤドリコナダニ(Ensliniella parasitica)は、寄主を寄生バチから防衛する。アトボシ成虫には、ダニの運搬のための適応と考えられる特殊な構造(アカリナリウム)が存在する。アカリナリウムの進化を明らかにするため、アトボシにおけるアカリナリウムの形態を詳細に調べるとともに、国外産の種も含めてAllodynerus属の他種とアカリナリウムの形態を比較した。アトボシの主なアカリナリウムは、胸部肩板後方(一対)、前伸腹節、および膨腹部第二背板前縁とに存在し、あわせて最大約300個体のダニ(第二若虫)を収容した。とくに膨腹部のアカリナリウムは第二背板前縁が大きく内側に嵌入し、外部には一対の小孔のみで連絡する特殊な構造を示した。Allodynerus属内では、メス成虫における膨腹部アカリナリウムの形態が最も種間で変化に富み、第二背板前縁が浅く陥没した状態からアトボシに見られるような深い陥入まで色々な状態が見られることがわかった。一方オス成虫の膨腹部アカリナリウムはいずれの種でも発達が悪く、種間の差も小さかった。Allodynerus属の種はいずれも、それぞれ種特異的なEnsliniella属ダニと関係している。Allodynerus属の予備的な分岐分析結果と、Ensliniella属の系統とを対照すると、両者の共種分化が示唆された。

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