| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-170
昆虫の産卵場所選択は孵化後の幼虫の適応度を左右する重要な繁殖過程である。チョウの産卵場所選択の研究はこれまで寄主植物の選択について主に行われてきた。しかし、肉食性のチョウについて、このような観点からの研究は見あたらない。肉食性チョウの餌となる生物の側もチョウの幼虫による摂食を防ぐための防衛を持つものがおり、チョウはその防衛手段を乗り越えるような産卵戦略が必要である。本研究ではこの点について検証した。
ゴイシシジミTaraka hamada の幼虫は純肉食性で、ササ類に生息するササコナフキツノアブラムシCeratovacuna japonicaを主な餌としている。ササコナフキツノアブラムシは捕食者に対する防衛手段として兵隊アブラムシを持ち、ゴイシシジミ幼虫も兵隊に対する防衛手段として孵化から1,2齢の間にテント状の巣を作り兵隊から攻撃されずに捕食する。しかし孵化からテントを作るまでには時間がかかり、その間に兵隊アブラムシに殺されてしまう場合が多いことがいくつかのデータから示唆された。したがって、チョウ成虫は産卵にあたって兵隊の攻撃を受けにくいアブラムシコロニー外部へ産卵する方が有利と考えられる。しかし、野外では外部へ産卵する場合とコロニーの内部へ産卵する場合の両方が見られた。このことは、内部へ産卵することに一定のメリットがあることを示唆している。
本研究では、アブラムシコロニーの外部と、内部で卵から孵化した幼虫の生存率、成長率の差を比較した。その結果生存率は内部で低く、逆に成長率は内部で高いことがわかった。このことは、内部は餌にアクセスしやすいというメリットがあるということを示しており、チョウ成虫の産卵戦略は被食と成長のトレードオフによって決まっているということが示唆された。