| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-173

枯葉に擬態した前翅をもつ蛾(Oraesia sp.)にみられる模様の揺らぎと相関構造の解析

*鈴木誉保(理研・CDB・形態進化), 山口素臣(理研・CDB・形態進化), 倉谷滋(理研・CDB・形態進化)

動物の体のデザインがどのように統合されているか(表現型の統合:Phenotypic Integration)ということは、進化・生態・形態学的に重要な課題である。こうした統合化は、生態的な戦略(Ecological Strategy)と結びついていると考えられるものの、その知見はほとんどない。今回、我々は、前翅が枯葉に擬態した蛾について、その模様要素がしめすばらつきの大きさと模様要素間の相関関係を計測したので報告したい。

対象として、ヤガ科に属する蛾を採用した。ヤガ科はその多くが隠蔽擬態をしていることで知られた分類群であり、目的に適していると考えられた。まず、蛾の実験室内での人工飼育系の構築を試みた。昨夏・今夏と、六甲山系にて蛾を採集した後、採卵・生育・交配条件を検討し、また人工飼料の開発も試みた。結果、アカエグリバ(Oraesia excavata)について飼育方法を確立した。次に、翅全体にわたって1つ1つの鱗粉細胞が見えるレベルで画像を取得する技術を構築した。以上により、(1)季節に関わりなく、蛾を恒常的に実験に用いることができるようになった。(2)制御された環境条件下で飼育が可能になり、撹乱要因の小さな計測ができるようになった。(3)高解像度での画像取得により、形態のわずかな違いを定量的に計測できるようになった。

さらに、形態測定法(morphometrics)により、翅上の模様要素の値を算出した。枯葉を形成している模様要素では、それ以外の模様要素と比較して、10倍から100倍小さな分散値を示した。このことから、安定化淘汰(Stabilizing Selection)がかかっていることが示唆された。また、枯葉に関わる模様要素間では、大きな相関を持つことが分かった。

日本生態学会