| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-175

キクビアオハムシにおける寄主利用の分化:ホストレース形成の初期段階?

甲山哲生(北大・理),松本和馬(森林総研・昆虫),片倉晴雄(北大・理)

キクビアオハムシは日本に広く分布し、サルナシ(マタタビ科)を主な食草として利用することが知られている。しかし近年、関東西部の限られた地域でオオバアサガラ(エゴノキ科)を食草とする集団が発見され、同所的に分布するサルナシ依存集団との間で成虫の食草利用能力に違いが見られることが報告された。

そこで本研究では、サルナシとオオバアサガラから採集した各3集団の成虫と、各1集団から得られた孵化幼虫を用いて、両食草における成虫の摂食受容性・選好性及び、幼虫の二齢進行率を調べた。その結果、サルナシ依存集団は、幼虫・成虫ともにサルナシのみを摂食し、幼虫はオオバアサガラ上で二齢幼虫まで生存できなかった。これに対して、オオバアサガラ依存集団では、集団ごとに成虫の選好性にばらつきがみられたが、すべての集団が両方の食草を摂食した。幼虫もどちらの食草でも二齢幼虫まで生存したが、野外での食草であるオオバアサガラよりもサルナシ上でより高い二齢進行率を示した。以上の結果は、食草の異なる集団間の寄主利用の違いが、少なくとも一部は遺伝的に決定されていることを示唆する。

一方、関東西部から北海道にかけて採集した15集団(サルナシ依存11集団、オオバアサガラ依存4集団)を用いて、ミトコンドリアCOI遺伝子領域の塩基配列(866bp)を決定した結果、遺伝的な分化は、食草の異なる集団間よりも地理的に離れた集団間で大きかった。

以上の結果を踏まえると、オオバアサガラ依存集団は、比較的最近に関東地方周辺で、食草の拡大、または変更に伴ってサルナシ依存集団から生じたらしい。二つの集団は成虫の選好性の違いによって部分的に生殖的に隔離されている、ホストレースの初期段階にあると考えられる。

日本生態学会