| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-179

モンゴルの放牧地生態系における中規模撹乱仮説の一般性および土地管理への適用性

*佐々木雄大,大久保悟,岡安智生(東大・農),ジャムスランウンダルマ(モンゴル農大),大黒俊哉,武内和彦(東大・農)

種の多様性と撹乱の関係の一連の研究は、中規模撹乱仮説(IDH)で予測される単峰形のパターンが必ずしも一貫しないことを示唆している。また、IDHに沿うパターンが定量化できても、その土地管理への適用性が検証されることはまれである。本研究では、モンゴルの放牧地生態系におけるIDHの一般性および管理への適用性に関する二つの仮説、1)多様性と撹乱の関係は景観スケールでの環境背景に依存する、2)ある中程度の撹乱は持続的な放牧地管理においても重要な役割を持つ、について放牧傾度アプローチを用いて検証した。

景観スケールでの環境背景を定量化した結果(計10サイト)、相対的に環境背景が緩やかなサイト群、および厳しいサイト群に分けられた。相対的に環境背景が緩やかなサイト群では、多様性と撹乱の関係はIDHの予測に一致し、放牧傾度上の中間距離で多様性が最大となった。一方、環境背景が厳しいサイト群のほとんどで、IDHは支持されなかった。これらから、多様性と撹乱の関係は景観スケールでの環境背景に依存することがいえる。さらに、中程度の撹乱レベルは概して生態学的閾値を越えないところに位置づけられた。これは、この系における放牧による中規模撹乱が多様性維持の観点からだけでなく土地管理においても重要な役割を持つことを表している。このように、土地管理上明確な意義を持つ生態学的閾値を用いることで中規模撹乱の持続的な放牧地管理における役割を明示することができたと同時に、生態学的閾値は多様性維持との整合性を持つことが示され、管理上の概念としての意義が拡がったと言える。本研究は、中規模撹乱と生態学的閾値の概念がこの系における持続的な土地管理への相互補完的なツールであることを示唆している。

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