| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-184

琉球列島における種子植物相の分化パタンとその成因 −海峡分断仮説の批判的検証

*中村剛(琉球大 21世紀COE),諏訪錬平(琉球大 理),傳田哲郎(琉球大 理),横田昌嗣(琉球大 理)

琉球列島の種子植物相については,北,中,南琉球を区切るトカラギャップとケラマギャップまたはその一方を境界として分化を認める説がある(Hara, 1959; Good, 1974; Maekawa, 1974; 島袋, 1984; Takhtajan, 1986; 北村, 1994).しかしこれらの研究は固有分類群や熱帯/温帯要素など植物相の一部を指標としており,古地理を重視するあまり,指標とする群の選択や分化要因の議論がギャップ形成の影響を支持する方向に偏っている可能性がある.生物の地理的分布パタンは,歴史的要因だけでなく現在の環境要因や地理的距離による隔離の影響を同時に組み込んだモデルにより説明されるべきである.本研究では主要26島について,ほぼ全種子植物種,約1800種の有無に基づいて島間で植物相の類似度を算出し,その変動がギャップ形成の地史のみにより説明されるか,或いは他の要因を取り入れたモデルにより説明されるべきか解析した.説明変数にトカラギャップの効果(ギャップをはさむ島間に1,他に0のダミー変数を与えた),ケラマギャップの効果,島間の地理的距離,面積差,標高差の5変数を用いた.このうち2つのギャップの効果と地理的距離との間にはそれぞれ相関があった.Multiple Mantel test及びpartial Mantel testの結果,島間の植物相の分化に対し,地理的距離とトカラギャップが有意に正の影響を,面積差が負の影響を与えることが示された.ケラマギャップをはさむ植物相の分化は,地理的距離による隔離の効果で説明される以上のものではないことが示唆された.面積差があるほど島間で類似度が高くなるのは,小島の植物相が大島の植物相の部分集合となるためと考えられる.

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