| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-185

寄主アリ及びハビタット特異性からみた好犠牲昆虫アリヅカコオロギ属Myrmecophilusの分子系統

*小松 貴(信州大・理),丸山 宗利(フィールド自然史博),市野 隆雄(信州大・理)

アリヅカコオロギ属Myrmecophilus(バッタ目、アリヅカコオロギ科)はアリ巣内で生活する好犠牲昆虫であり、アリが外から搬入する餌を奪って生活する。世界中の温帯から熱帯にかけて約60種が知られ、特に熱帯アジア地域に種類が多い。国内では従来3種程度が知られる分類群であったが、近年微細な形態形質により多数種に分類された(Maruyama 2000)。さらに、従来ジェネラリストとされていたこれら日本産種の一部が、特定分類群のアリの巣だけに寄生するスペシャリストであることもわかった(Komatsu et al. submitted)。

今回、日本、東南アジア熱帯および北米の計140サンプルを用いてアリヅカコオロギ属のmtDNA系統樹を作成した。その結果、大きく10系統が認められ、日本本土と北米の系統が単系統となった一方、日本の南西諸島に生息する2種が東南アジア産の種と単系統を形成した。

系統内ではいくつかの地理的な分化が認められた。まずM. kubotai -2系統では、東日本産(伊豆半島を除く)・西日本産・伊豆半島産という3つの地域型が顕著に認められた。さらに日本の南西諸島から東南アジアにかけて広域分布するM. albicinctusにおいては、南西諸島産・インドネシア産・タイ産・マレー半島産という4地域のサンプルが大きく分岐した。

アリヅカコオロギ属に見られるこうした系統内の分化は、過去に起きた地史的なイベント(M. kubotai -2系統の場合)や、寄主であるアリ側の分化に強く影響されている可能性が考えられる。M. albicinctusは、熱帯・亜熱帯地域で侵略的外来種として扱われるアシナガキアリAnoplolepis gracilipesに高頻度で寄生するコオロギであり、後者(地理的共分化)の可能性について検討中である。

日本生態学会