| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-186

東濃地方を中心としたヒメタイコウチのミトコンドリアDNAの16SrRNAに認められたハプロタイプについて

*中村早耶香,味岡ゆい,堀川大介,南基泰(中部大大学院・応生)

岐阜県の東濃地方には湧水に涵養された低湿地が多く成立し,そこにはヒメタイコウチ(Nepa hoffmanni)が生息している.ヒメタイコウチは水中への適合が不十分な,湧水のある湿った陸上を主な生活場所とする湿地性の水生昆虫で,国内では限られた分布を持つ.その生態や分布についてはまだ不明な点も多く,本種の形態には地理的変異がないとされ,分子レベルでの研究もされていない.本報告では周伊勢湾地域,特に東濃地方を中心とした各地のヒメタイコウチのミトコンドリアDNAの16S rRNA遺伝子領域に検出されたハプロタイプの地理的変異について報告する.

岐阜県,愛知県の33地点で採集したヒメタイコウチ成虫151頭で16S rRNA遺伝子領域のDNA配列を決定することができた.この結果,愛知県春日井市松本町の5頭のみが551bpで,その他の地点では550bpであった.そしてこの配列においてDNA多型9箇所が検出され,11ハプロタイプ(ハプロタイプI〜XI)が確認された.そのうち2ハプロタイプ(ハプロタイプI,II)の分布域が最も広く,北は岐阜県中津川市,南・東は愛知県豊川市,西は岐阜県各務原市と採集地域全体に分布していた.他の9ハプロタイプ(ハプロタイプIII〜XI)はいずれも局所的な分布域であった.このような各ハプロタイプの分布域の違いは,本種の東海地方,特に東濃地方とその周辺における各ハプロタイプの分布域拡大速度の違いによるものと考えられる.すなわちハプロタイプI,IIは分布域拡大に有利な地理的要素が愛知県東部から岐阜県東濃地方に存在した時期に一気に分布域を拡大したと考えられる.

本研究より形態ではないとされていた本種の地理的な変異をミトコンドリアDNA 16S rRNA遺伝子領域で検出することができた.

日本生態学会