| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-189
生物の分布と標高の関係には、いくつかのパターンが見つかっている。Stevens(1992)は「種ごとの垂直分布範囲とその種が棲息する標高には正の相関がある」とした。これは高地ほど気候変動が激しく、そこに生息する種は環境変化に対して耐性を持つため、より広い分布範囲を持つという説である(Rapoport’s elevational rule)。また、同じ理由から「種数と標高には負の相関がある」というパターンも説明している。これは環境変化に対して耐性を持つ高地の種は、低地への移住と分化によって低地の多様性を膨らませるが、低地の種は、高地の気候変動に耐えられず絶滅が起こりやすい。その結果、種多様性は標高とともに低くなる(Rapoport’s rescue hypothesis)。
本研究では、乗鞍岳の標高700〜3000mの範囲で垂直分布調査を行った。対象には、定住性で分布範囲が特定しやすいアリ類を用い、標高ごとに種組成とそれぞれの種の個体数を調査した。その結果、種数は標高に伴って有意に減少した(r = -0.93, p < 0.001)。さらに標高1500m以下では各種の棲息する標高と垂直分布範囲との間に有意な相関が認められた(r = 0.71, p < 0.001)。しかし亜高山帯より上部のアリ種は逆に分布範囲が狭くなるという、これまでの報告に無い新しい傾向が見られた。これらから、ラポポート則は基本的に支持されたが、高標高域ではラポポート則が想定している気候変動以外の要因が、分布および種多様性に影響している事が示唆された。今回確認された分布パターンについて、日本における垂直分布帯の寸づまり現象(沼田1970)および北方系種と南方系種の二極分化という観点から、大陸との比較をまじえ考察する。