| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-202
東南アジア熱帯雨林は地球上で最も生物多様性が高い場所のひとつである.この高い多様性の起源と由来を理解するためには東南アジア熱帯雨林の歴史地理学的な再構成が欠かせない.しかし,この地域に分布する生物群についておこなわれた分子地理系統学的研究は意外にも少数である.アリ植物オオバギ(Macaranga 属)は,幹内に絶対共生者であるアリ(Crematogaster 属)とカイガラムシ(Coccus 属)をすまわせている.アリ植物オオバギとその共生者の分布は東南アジア湿潤熱帯に限られているため,これらは,東南アジア熱帯雨林の生物地理を再構成する上で好適な研究材料といえる.今回,我々は(1)マレー半島とボルネオ島の13カ所から採集した共生カイガラムシ220サンプルのmtDNA分子地理系統樹(COI遺伝子)を作成し,(2)遺伝的多様度,集団サイズおよび個体数変動の歴史をそれぞれ地理的に解析することから,カイガラムシの氷期レフュジアおよび地理的な分散経路を推定し,(3)その結果がアリのもの(Quek et al. 2007)と一致するか否かについて検証した.その結果,アリとカイガラムシはともに第三紀にボルネオ島で起源し,マレー半島へと分散したこと,両者の氷期レフュジアおよび多様性の中心地はボルネオ北東部の山地帯であることなど,両者はよく似た歴史地理パターンを持つことが明らかになった.