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一般講演(ポスター発表) P3-210
豊凶とは、植物の開花量および結実量に様々な程度の年変動や個体間同調が生じる現象を指す。本発表では、植物生理学的な資源収支が豊凶の要因となりうるか否かについて、適応動態の側面からこれを検討した。具体的には、雄花と雌花への資源投資比に着目して、各樹木個体が開花・結実を通して進化的に安定な性比配分戦略をとる場合の個体群結実動態について調べた。
用いた数理モデルは、資源貯蔵動態および花粉媒介による個体間結実同調を記述した資源収支モデル(Satake & Iwasa 2000 J. Theor. Biol. 203:63) に、性比の進化を追加したものである。このモデルでは、各樹木個体は毎年資源を貯蔵し、貯蔵量がある閾値を超えると、開花・結実へと投資される。結実量は、雌花への投資量と周囲の花粉密度および係数の積とした。送受粉過程はランダム交配を仮定した。各樹木個体の年平均結実量を適応度とみなし、頻度依存淘汰によって性比が選択される進化機構を想定した。結実の変動および同調の程度を決める2種類のパラメタを任意に与え、その条件下における性比の適応動態を吟味した。
雄花と雌花への投資比を暗に1:1と仮定した既存の資源収支モデルでは、広いパラメタ領域において、カオス的な結実年変動および様々な程度の同調が起こることが示唆されたが、進化的安定な性比のもとでは、個体群の結実動態は完全同調した2周期、もしくは年変動なしのいずれかを示した。これは、適応動態を考慮した場合、植物の資源収支や花粉交換といった作用が、豊作年・凶作年が交互に現れる結実動態を引き起こしうることを示す。一方、それらの作用のみでは、結実に関する複雑な年変動や不完全同調は観測されず、そのような動態には他の要因を要することを示唆する。これらの結果を基に、結実動態を決定する要因を適応動態の観点から考察する。