| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-218

記憶力が適応戦略に与える影響: Levy or not Levy, that is the question

*堀部直人(東大・総文),池上高志(東大・総文),嶋田正和(東大・総文)

生物が餌探索を行った結果残した歩行軌跡には、その生物が取り入れた環境情報の記憶・学習に基づく意志決定過程が反映される。歩行軌跡を解析した先行研究から以下のことが明らかとなった。それは、 (i)Levy flightとよばれるscale-invariantな確率過程に従って歩行することで、少量の餌がランダムに存在する環境下での採餌効率を高めることが可能である (ii)野外観察および室内実験からショウジョウバエ、鹿、ジャッカル、アホウドリなど多くの生物がLevy flightを実際に行っている、という2点である。

しかし、2007年に入り、(ii)の研究成果に対してデータ取得方法や解析手法の誤りが指摘された。(ii)の結果を報告した研究者の何人かはその誤りを認めており、歩行軌跡の解析は振り出しに戻されたといえる。

そこで、我々は歩行軌跡が従う確率過程を明らかにし、その意志決定過程について考察を行うため、ショウジョウバエを用いて歩行軌跡を取得し以下の解析を行った。ひとつは歩行軌跡が従う確率過程のモデル選択とAkaike weightの計算で、ここからLevy flightが強くは支持されるわけではないがやはりLevy flight的であるという結果を得た。そして、記憶に関する突然変異体と野生型系統の歩行軌跡を比較することで、歩行軌跡を一定の確率過程に従わせる要因が環境情報の記憶・学習といった外的要因であるというよりもむしろ生物の脳の物理的特性、あるいは身体性に依拠した内的要因ではないか、という示唆を得た。

日本生態学会