| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-219
森林における一斉開花結実現象はマスティングと呼ばれる。マスティングのメカニズムに関するモデルはEnergy Budget Model (Satake, and Iwasa.2000)が知られている。このモデルでは、一回の繁殖への資源投資係数kと花粉の獲得効率βの2つのパラメータのバランスによって不規則で同調した開花など、様々な繁殖の動態が引き起こされる事がわかった。本研究ではこのモデルの資源投資係数kに注目し、花粉の獲得効率βの条件下でどのような繁殖戦略が進化的に有利となるのかを調べた。
現実の森林では樹木の数は有限であり、花粉交換を通して相互作用している。この様な状況は有限集団ゲームといえる。有限集団ゲームでの進化的有利さは突然変異体の固定確率で議論される。突然変異体の固定確率が中立変異体の固定確率と比べて有意に大きければその変異は進化的に有利であるといえる(Nowak.2006)。
ある集団に突然変異体が出現した時、どのような形質値ならば侵入可能なのかを議論する際、Pairwise Invasibility Plot(PIP)が用いられる(Geritz,et.al.1997;1999)。本研究ではPIPを有限集団に拡張して用いた。PIPでは、先住者集団に対する侵入者の適応度を比べてプロットしている。しかし、今回のモデルでは適応度が解析的に出ないため固定確率を用いて議論しなければならない。ある先住者集団に対して侵入者の固定確率が有意に高いかどうかをプロットしたものをPairwise Fixation Probability Plot(PFPP)と呼ぶ。本研究ではPFPPを用いてマスティングの進化を議論した。その結果、単にギャップをめぐる競争という条件のみでは、毎年開花をする事が大域的なESSであることがわかった。この結果はカエデ科の様なギャップ依存種の生活史とよく合っている。