| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-221

貧栄養状況下での消費者の影響

*福井眞(東大広域システム), 三木健(京大生態研センター),嶋田正和(東大広域システム)

生態系内に流入する栄養塩が乏しい環境下での生態系の生産性、とくに植物の一次生産について、消費者の存在がどのように影響するかを調べた。生態系は栄養塩を出発点とした物質循環が成立している。植物が摂食を受けることでその一次生産や繁殖量が増大する「grazing optimization」という現象は多くの研究により報告されている。物質循環が成立する生態系で、消費者が存在することによって循環が強化され、一次生産も増大することが多くの理論研究により解析されている。これらの解析は生態系のダイナミクスが平衡にあるという条件下でなされているが、実際には変動があることが自然である。本研究では生態系に流入する栄養塩に対する変動を考慮した。まず栄養塩の流入が途絶えた場合、一次生産が時間発展とともにどのように推移するのかを調べた。消費者が存在すると、平衡状態でパフォーマンスを落とすような場合でも、高い一次生産を維持できることが明らかとなった。さらに、栄養流入と途絶が周期的に繰り返されるような貧栄養状況下での解析をおこなった。栄養流入の周期が長くなると、消費者の存在は周期全体の一次生産をより増大させうることがわかった。また、平衡状態のときに一次生産を最大化させる消費者の摂食圧よりも、非平衡状態で最大化させるものの摂食圧のほうが高い値であった。消費者の摂食圧は、消費者と生産者の共進化によって決定されるため、両者の共進化、とくに相利関係の進化について考える上で、重要なパラメタである。生産者―消費者の共生関係に関する先行研究では、生産者側の進化についてのみ注目されていたのに対し、本研究では消費者側の進化を考慮し、両者の相利関係の構築あるいは消費者の寄生について考察する。

日本生態学会